2005年6月20日

横山秀夫:顔 FACE


「半落ち」で一躍ブームを巻き起こした横山秀夫の作品です。この人の作品は、「半落ち」もそうでしたが、「刑事の周辺」というものを描きます。「半落ち」の場合は、引退した刑事でしたが、本作では「似顔絵婦警」が主人公です。私たちも普段そういう人がいるんだろうなということだけ知っているのですが、実際にはあまり良く知らない被害者から特徴を聞いて、似顔絵を書く婦警さんが主人公です。似顔絵婦警って刑事課だと思ってましたが、鑑識課なんですね。この小説ですが、残念ながら世間の評価があまり高くないようです。どうしてでしょうか?おもしろいのに。

確かに、「平野瑞穂」という主人公の23歳の女性は、あまりに平凡と言えば平凡で、子供の頃に婦警さんの制服にあこがれて、得意だった絵を生かして似顔絵婦警になるというストーリーで、安っぽい2時間もののドラマのような設定です。しかし、その根底に流れるものや、「婦警」という職業に送られる痛切なメッセージ性のようなものは考えさせられるところがあります。

前半の下りで、「婦警」という言葉にはやや差別的な雰囲気があるので「女性警察官」という言い方をするようになったという説明がありますが、警察官の募集要項を見たところ「警察官/女性警察官」という募集がされていました。今時、こんな風に「女性」を区別して募集するというのも珍しいことかもしれません。そういうところに警察は男社会ということが現れているのかもしれません。

短編集ですが、最後の短編にいろんな意味ですべてが集約されています。「成長」という言葉でひとくくりにするとあまりにも安っぽいです。印象的なのは、瑞穂は男になろうとするのではなく、女性であろうとし続けることでしょうか。とかく男社会と言われるところ(私の仕事もそんなところがありますが)では、女性は男性と同じように仕事をすることを求められ男性化している人が高い評価を受ける傾向がありますが、そうではなく女性だからできることを男社会の中で見つけて立ち向かって行く、そんな主人公に好感が持てるかもしれません。

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